日記
トラ、トラ、トラ
「トラ、トラ、トラ」という映画があったがそれとは違う。先輩は無類の阪神ファン。阪神以外は知らないそうだ。次は"寅さん"。大船に撮影所があった頃に上京し撮影所前のアパートに住む。街には寅さんが好きなラーメン屋やレストランがある。跡地に出来た大学に勤めた頃、そのラーメン屋で昼を食べ、レストランでは歓送迎会があったが"寅さんの好んだ部屋、席"と説明された。そのラーメン屋は、ほどなく閉店した。最後はトラもトラ、大トラ。無類の酒好きで酔いと共にやけどしそうな熱量で仕事の話をした。
福祉職だが趣味が高じて舞台の仕事をした経験もあった。施設再整備担当の頃、舞台装置の予算がなく諦めた時「センターと話しが付いた!」と。数年で設備を入れ替えるそうで、他所属が再利用する。「ホリゾント幕もあるぞ!」「???」「舞台の後ろで照明を効果的にする幕だよ」「今日、見に行こう!」。知的障害児施設にそこまで必要か...と考えていると、彼らが一生懸命な姿をより良い状態で見せる設備、装置は出来るだけ本物でなければいけない!と力説した。帰り道、ひとつのことをやり遂げた嬉しさでいつもに増して酒が進み、時間が経つのを忘れて話し続けた。何をするにも一生懸命で楽しんでいた。
地域サービスを担当し始めた頃、誰もが事業の重要性が見えておらず反対する人が多く、何をするにも抵抗勢力にどう対応するかが課題だった。その姿を見ては一緒に帰ろうと誘われた。ちょっとだけ付き合えと言われ、長~い時間を過ごした。そんなトラさんは、公務員では最悪の転勤拒否を2度もした。だから、上司からは肯定的には見られないが、涼しい顔で構わなかった。それでも結果を出し施設長を最後に退職した。
一緒の職場は1度、2年ほどだが、いつも熱い思いが化学変化をもたらした。ある日、地域サービス担当と見解が違うと担当寮に呼ばれた。最初からケンカ腰。何度も突っかかってくる。しかも寮の職員室だから何人も聞いていた。いつもと違う様子に戸惑いながらも次第に本気で議論し始めた。口角泡を飛ばす!状態で時間切れになる頃、若い担当職員が"地域担当が正しいと思います!"と。しまった...。直属ではないが相手は課長、こちらは主任でもない若造...。正しくても失礼だ...とひやひやもので退席した。これまでの関係はもうない...、地域サービスの行方に暗雲...などと考え結構ブルーだった。退庁直前に電話。"いつものところで待っている!"と。もちろん、おしかりを受けるつもりで伺った。笑顔、満面の笑顔。"今日の酒はうまい!"と。緊張して座ると"ありがとう!本気で話してくれて本当にうれしかった!"と。なんとはめられていたのだ。若手の担当職員がなかなか理解しないので勉強の機会を作った由。真剣に意見を交わし、何が大切か、何を考えるべきか、どう進めるべきか...。たった1人の利用者についての真摯な議論から何かを見出だして欲しいと思っていた由。若手職員は議論する姿を見てしっかりと感じたそうだ。1人で帰らされたのは、その後も時間をかけて話し合う必要があったから。その後、その職員が更なるチャレンジをする姿を見た。職場の雰囲気を作るのはカリスマではない。ひとり一人の職員が参画して出来る。だが、負にも正にも移ろう。だから空気をコントロールできる上司がいると確実に"正"に向かわせる。大トラは僕の中でまだ燃えている。