日記
波多江式インディアン的福祉論⑳ ~番外編:かけがえのない人~ ( サービスセンターぱる / 所長 波多江 努 )
私には心の師と仰ぐ利用者が3名おり、その1人から「生きること」を学ばせてもらった経験があります。
ひと昔前のことではありますが、師はある理由で脳が委縮し、自分でできることが徐々に減り、大半の場面で介助が必要となったのです。食事を摂取することも困難な状態となり、師の家族は当時の主治医から胃ろう造設を勧められたのです。造設しなければ、徐々に衰弱していくことは言うまでもありません。しかし、家族はそれを拒否したのです。
当時の私は、その判断に大きく動揺しましたが、受け止めざるを得ませんでした。変化していく本人の状態に合わせ、今できることを考え、家族と相談し、支援してきました。
数か月後、本人の生涯を振り返った家族の手記を頂戴する機会がありました。何度も通読することで、家族は師が生まれてから様々な現実を受け入れながら、師を心から愛しており、また師も家族を愛していたことが伝わってきました。(この手記は、今でも私にとって大切なバイブルとなっています。)
あの時の胃ろう造設の拒否は、家族が師に対し、最大の敬意を払いながら「これまで家族のために生きてくれてありがとう。あとはのんびり暮らそうね。」という想いを踏まえた上での判断だったのだと思います。
十数年たった今、私に同じようなことが起きています。
近親者が常時介護を必要とする状態となり、医師からは胃ろう造設を勧められ、拒否することは殺人行為と同じ。と行き過ぎとも思える話を受けました。
しかし、私たちが出した結論は、師の家族と同じです。
「あなたからの優しい気持ちは存分に感じてきました。ありがとう。あとは、のんびり暮らしていきましょう。」
そして、師とご家族の皆さん、かけがえのない経験をさせていただき、生きることを学ばせていただきました。本当にありがとうございました。
この記事を書いた人
モノづくりの類まれなる能力の持ち主。装飾品制作から派生して、革細工の世界へ。生来の凝り性な性格から、いつからか革細工の技術はプロ顔負けの腕前に…!家族とメタリカを愛する、心優しきパパ。