本なんてものは読む人の考え方、置かれた状況など様々に影響を受けるのだから、読後感想文は読む人の邪魔だ...と、ちょっと斜に構えた考えでいる。だから、どう読んだかなどほとんど書かない。それでも書きたくなることもある。これは図書館の新刊案内でリサーチした。2019年5月30日発行だからまだ世に出てほやほやだ。本を読むのは電車の中が多く涙が出そうで困った。自分は感情移入せず客観的に読む方だと思っていたが、やっぱり"感情的な動物"なんだ...と。涙をこらえながら読んだのは「佐世保小6同級生少女殺人事件」の被害者家族のその後。『僕とぼく』は2人の兄。著者は当時、父親の部下だったジャーナリスト。事件は記憶のかなただろうが衝撃的だった。カッターナイフで僕(ぼく)の妹を切り殺した同級生は児童自立支援施設(児童福祉法)を出て成人を迎えた頃。その間、兄たちが歩んだ道を誇張や衝撃的にせず、丁寧に、やさしく包み込むような文章だった。それだけにリアルだ。
副題に"妹が奪われた「あの日」から"とあるが、事件が起きる前、がんに侵され他界した母親のことが書かれていた。事件当日の衝撃の前に家族を襲っていた悲劇など知る由もなかった。事件後、気丈な父親が出すコメントの正当性。だが、その裏に精神的なカオス。目前でそれを見る同居の次兄。大学生の長兄は心の内を隠し気丈にふるまう。青春を謳歌する様子の裏にある社会とのわけの判らないへだたり。ひたすら受験勉強をする次兄は目標を見失うように精神を病む。誰もが必死にこらえ、必死に生きようとし、必死に苦しみ、悲しみに耐えている様子が判る。判りすぎているかもしれないが、感情移入せざるを得ない心持ちで文字を追う。あいだに、祖母の話しが出るが言葉少な。しかし、孫を持つ身としては、心情がいかばかりかは推量するに十分だ。娘の忘れ形見だから...。これだけでも十分に衝撃なのに殺害された孫娘、苦悩する兄二人、そして父親...。
障害福祉を生業とする者として"当事者は多様!"と語ってきた。障害者本人だけが当事者ではなく、家族にも支援のまなざしがなければ、障害当事者だけ支援をしても問題は見えない...という意味を込めていた。佐世保小6女子同級生殺人事件を、人々は殺された同級生に思いを馳せ思い起こす。少しこの領域に関係する人は殺害した少女を見て様々に考えを巡らす。そしてそれ以外の同質の犯罪を含めた分析や思索を巡らす。しかし、そのような分析的なことを著者からは全く感じない。物事は目の前に起きたことだけでは理解できない"何か"がうごめいていると気づく。今回の"何か"は、当事者が多様であることの本当の意味。障害者自身の問題というだけでなく、当事者を取り巻く人間模様、当事者を地域社会や社会問題としてどう見るかは、私たち自身の考え方次第だが、表層の答えを見るだけで何かが判った気になることはとても危険だと気づく。人を支援する意味の奥深さをしっかりと自覚したい。(2019.11)
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