Macin亭日乗・抄(湘南セシリア副施設長・小林博)

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×月×日

『歌旅 劇場版』をマイカル茅ヶ崎で観る。2007年に行われた中島みゆきのコンサートツアーの記録映画。このツアーの東京公演は、生で観た。その後発売されたDVD『歌旅』ももちろん購入して、何度も観た。今度、あえてDVDを劇場用に編集し、全国で2週間だけ限定して公開することになった。音楽DVDの劇場版上演が結構流行っているらしい。中島みゆき関連なら、なんでも追っかけておかないと気が済まない。6時の終業ぴったりに職場を飛び出し、6時35分の上演開始にギリギリセーフ。大スクリーンにみゆきさんのアップ画像が映し出される。ライブとも家でのDVD鑑賞とも違った、贅沢なみゆきさん体験。至福の時であった。


×月×日

山浦玄継『イエスの言葉 ケセン語訳』を読む。山浦さんは、宮城県気仙地方に住むお医者さん、そして敬虔なキリスト教徒で、市井の聖書研究家である。山浦さんは生まれ育った、宮城県気仙地方の方言をこよなく愛し、みずからケセン語と名付けて、10年ほど前に『ケセン語訳 聖書』を出版した。3月11日の大震災で、その『ケセン語訳 聖書』の在庫を納めていた倉庫が被災し、本はすべて水浸しになってしまった。廃棄するしかないと覚悟したが、この在庫本が被災をくぐり抜けた『お水くぐりの聖書』として話題になり、3000部が3ヶ月ほどで売り切れてしまった。『イエスの言葉 ケセン語訳』はこの被災体験を含めた話題を交えて、ケセン語訳聖書のエッセンスを伝えてくれる本である。

マルティン・ルターのドイツ語訳聖書が、キリスト教の民衆化とプロテスタンティズムの形成に決定的な役割を果たしたという歴史を思い出す。16世紀のヨーロッパでドイツ語は、田舎の方言に過ぎなかった。山浦さんをルターに比すのは、ご本人に畏れ多いと言われそうだが、本当に偉い人は、辺境に草莽の中にこそいる、と思う。


×月×日

金川英雄『日本の精神医療史』を読む。呉秀三らによる『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察』を懇切に解読して、明治から昭和にかけて、近代が立ち上がって行く過程で、日本の精神医療がどういう風に形成されていったかを追う。俗に座敷牢と言われる、精神病者の在宅監視制度の実態が原資料に基づいて、つぶさに記述されている。目から鱗が落ちる思いがした大きな発見は、座敷牢は前近代的な監禁とばかり思っていたが、場合によっては家族によってとても手厚い保護が行われていて、ある意味在宅ケアの先駆であったということである。歴史研究において、一時資料を読み込み、読み直すことの重要さを改めて知る。


×月×日

A・V・バナジー&Eデュフロ『貧乏人の経済学』を読む。著者2人はアメリカの高名な経済学者、ノーベル経済学賞級の実績がある人らしい。いままで貧困の問題を経済学は開発経済学などの名のもとにさんざん研究してきたが、それは所詮『貧乏の経済学』であって、実際に貧困の中にいる人たちが何を感じ思い、どんな経済生活をしているか、全く調べられたことがない、という。2人の著者は、バングラディッシュやインドの貧困地帯に実際に飛び込み、丁寧なインタビューを重ねて、『貧乏人の経済学』を作り上げて行く。ばらまきでも哀れみでもない、本当に有効な貧困対策は『貧乏人の声を聞く』ことからしか生まれない、という姿勢が実に潔い。


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