酔いざめのスイカ(湘南ゆうき村・植村裕)

Unknown.jpeg盛夏を迎えスイカが店頭に賑やかに並ぶ季節となった。そして毎年スイカを見ると想いだす幼い頃の出来事がある。

 

小学校に上がる前のことである。幼稚園は夏休みで、朝から一つ年上で大の仲良しのM君と外で遊んでいた。暑くなってきたのでM君の家に行くことになった。家には誰もおらず、喉が渇いたので飲み物を探した。当時はまだ一般家庭では電気冷蔵庫が普及していない頃で、木製で内側にブリキを張り、板氷を入れて冷やす冷蔵庫を使っていた。そんな時代なのでジュースなどあるはずもなく、飲み物といえば水やせいぜい麦茶だった。だが二人はいいものを見つけてしまったのだ。「梅酒」である。もちろん子どもは飲むことは禁じられていたし、「子どもが飲むと死んでしまう。」とも言われていた。しかし、味見ということで舐めさせてもらった覚えがあり、その美味な誘惑に二人は勝てなかった。

薄ければ大丈夫だろうと、薄目のものを作って飲んでいたが、「まぁ、一杯どうぞ。」などとやっているうちに、気が付けば二人とも真っ赤な顔をしていた。何だか楽しい心持ちになり、お互いの赤い顔を見合わせては大笑いをしていた。
気の大きくなったちびっこ酔っ払い二人組は再び外に出た。ご機嫌で歩いていると、近所のおばさんに見つかり「あなた達どうしたの!」と言われたが、「へへへっ」と言って逃げてしまった。

 

その後のことは記憶が定かでないが、家にたどり着いて寝てしまったようだ。さぞかし母は驚いたことだろう。二人とも急性アルコール中毒にならなくてよかったとつくづく思う。

どのくらい経ったのだろう。やけに喉が渇いて目が覚めた。母がスイカを出してくれた。スイカにかぶりつくと甘い果汁が喉にしみわたるようでおいしかった。こんなにおいしいスイカは初めてだと思った。

その日は子ども会の催しが家のすぐ前の広場で行われていた。窓から覗くと、ちょうど地元でとんかつ屋を開業していた日本王座の元プロボクサーT氏が手品を子どもたちに披露していた。私は気まずさと自責の念と気だるさで仲間に入ることもせず、一人窓からぼーっと、その様子を眺めていた。

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