今日は思う存分Jazzの話をしてしまおう。ディープでマニアックな話になるが、10人に1人くらいは相通ずる人がいることを念じて、どんどん書き進む。
まずは、映画『情熱のピアニズム』だ。私のお気に入りの名画座、黄金町のジャック&ベティで観た。天才ピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニの生涯を追ったドキュメンタリーである。ペトルチアーニは1932年、フランスに生まれたが、天才は夭折する、1999年に36歳で亡くなった。骨形成不全症という障害をもっていた。生まれつき、骨をうまく作ることができず、異常に骨折をしやすい。成長障害があり、ペトルチアーニ自身、成人しても1メートル足らずの身長しかなかった。コンサート中にも、何度も足や腰を骨折した。身体的には、文字通り満身創痍の生涯だった。
▼ピアノに向かうペトルチアーニ
天はペトルチアーニにピアニストの才能を与えた、それも飛びっきりグルーヴィーなジャズピアニストの。5歳でデューク・エリントンのレコードを聴いて、ジャズピアニストを志した。13歳でフランス巡業中のジャズトランペッター、クラーク・テリーにその才能を見いだされ、プロデビューする。18歳でアメリカに渡り、チャールズ・ロイドのバンドを皮切りに、リー・コニッツ始め超一流のミュージシャンと競演。1985年には、フランス人として初めて、アメリカの名門ジャズレーベル、ブルーノートと専属契約した。アメリカ、ヨーロッパで無数のコンサートをこなし、日本にも2度来た。30数枚のアルバムを残し、36歳で天国に旅立った。
部類の女好きで、異常に女性にもてて、口説きの天才、短い生涯に4人の女性と結婚・同棲を繰り返した。映画『情熱のピアニズム』は、この天衣無縫の天才の一生を、関わりのあった家族、友人、女性のインタビューをもとに、ご機嫌に描いている。
ペトルチアーニは、とにかく明るい。根は寂しがり屋なのだろうが、いつもいつも周りに人を集め、その中心に自分がいて、止めどなくジョークを飛ばし、笑いの渦を作っていく。ペトルチアーニは、とにかく自由だ、そして身勝手だ。結婚していても、コンサートの巡業先でいい女を見つけると、一晩で口説いて、そっちに鞍替えしてしまう。それでも女性たちは、愛してやまない口調と表情で、ペトルチアーニを回想するのだ。
映画を見終わって、「人生は自由だ、それにしても天才はいいなあ、もてる男はいいなあ」とぶつぶつごちながら、野毛の『ちぐさ』に向かう。『ちぐさ』はジャズファンなら知らぬ者のいない、名門ジャズ喫茶である。渡辺貞夫、秋吉敏子、日野皓正などのスターたちは、すべてこの『ちぐさ』で米軍放出のレコードを聴いてジャズの勉強をした。『ちぐさ』は戦後日本モダンジャズを育てた揺りかごである。
マスターの「吉田のオヤジ」こと吉田衛さんが亡くなり、親族が店を継いでいたが、惜しくも『ちぐさ』は2007年に閉店してしまった。閉店を惜しむオールドファンたちが「ちぐさ会」を結成し、ボランタリーで店の再建を計画し、見事2012年3月に『ちぐさ』が復活した。その再生『ちぐさ』を初めて訪れたのだった。
昔のままの、本当にそのままの姿で『ちぐさ』が再現されていた。「ちぐさ会」のおじさんたちが、楽しそうに談笑しながら、コーヒーを淹れてくれる。『ちぐさ』に来たら、リクエストするのが礼儀だ。チャールズ・ロイドの『モントルー82』をリクエストする。若きペトルチアーニがピアノを弾いているレコードだ。
『ちぐさ』で聴くペトルチアーニは最高だった。獲れたてのオレンジのように、音の一つ一つが溌剌と粒立ち、自由に飛び回る。
「人生は自由だ、凡人にもね」と『ちぐさ』の大スピーカーの向こうでピアノを打ち鳴らすペトルチアーニに語りかけた。
映画『情熱のピアニズム』公式サイト
http://www.pianism-movie.com/
映画『情熱のピアニズム』予告編
http://www.youtube.com/watch?v=zbpkmGtol0Q
Michel Petrucciani - So What
http://www.youtube.com/watch?v=plRd_Kdcu4Q
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