夕暮れ 原詩:黒田三郎 曲:高田渡
夕暮れの町で
僕は見る
自分の場所からはみ出してしまった
多くのひとびとを
夕暮れのビヤホールで ひとり
一杯のジョッキをまえに 斜めに座る
その目が
この世の誰とも交わらないところを えらぶ
そうやってたかだか三十分か一時間
雪の降りしきる夕暮れ
ひとりパチンコ屋で
流行歌のなかで
遠い昔の中と
その目は
厚板ガラスの向こうの
銀の月を追いかける
そうやってたかだか三十分か一時間
黄昏が
その日の夕暮れと
折りかさなるほんのひととき
そうやってたかだか三十分か一時間
夕暮れの町で僕は見る
自分の場所からはみ出してしまった
多くのひとびとを
夕暮れのひととき、仕事や家庭(あるいは社会といってもよいか)のわずらわしさやしがらみから逃れ、自分の場所からはみ出してしまった人々。彼らはビアホールやパチンコ屋で他人(社会)との関係を遮断し、しばし一人の時間を過ごす。
私も30年近く前、パチンコ屋にしげく通っていた時期があった。
この歌を聴いたとき仕事に疲れた体と頭で無心に玉をはじいていた頃のことを思い出し共感を覚えた。高田はパチンコ玉を原詩の「鉄の玉」から「銀の月」と言い換えている。「銀の月」とは美しさとともに、無機的な凛とした冷たさも表現している。高田の詩的な感性を強く感じさせる部分であると思う。
最近気づいたのだが他にも高田が書きかえたところがある。それは原詩「夕暮れのパチンコ屋で」から「雪の降りしきる夕暮れ」となっている。黒田三郎の「夕暮れ」の時代から、高田渡の「雪の降りしきる夕暮れ」の時代へ変遷していったのだ。自分の場所からはみ出した人々にとってさらに生き難い状況となった。雪の降りしきる夕暮れにパチンコをする人々は、わずかなひとときの後、行き場のない雪の中、どこに帰って行くのだろうか。
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