五月の日曜日のうららかな午後、昼寝でもしようと、うとうとしかけた時に電話のベルが鳴った。脳性小児麻痺のある女性の友達からだった。
四月から、入所施設に戻ったと言う。「戻った」と言うのは、彼女は17,8年前に入所施設を出て地域で暮らすことになり、福祉ホーム、そしてケアホームと移ったのだが、年齢を重ねると共に障害も重くなり、歩くのが不自由になってきたため、車いすで生活をするようになった。そんな理由もあって、ハード面でケアホームよりは充実している入所施設へ移ったとのことだった。
その前にケアホームでの些細ないざこざもあったらしい。思わず、「こんなとこ嫌だ!」と言った。それならということで、他を探して見ましょうということになり、事はとんとんと進んでしまった。こんな時の進みは早い。体験期間が終わって返事をすると、タイミングを逸したのか、「もう決まってしまったから変更は無理です。」と言われたとのこと。
「私は、本当はここへ来たくなかったのよね・・・」という後悔とも愚痴ともつかない話を延々1時間ほど聞いた。
障害者の権利がないがしろにされているとか、意思決定支援ができてないのではないかということを言いたいわけではない。
50代の後半になるこの女性の話を聞いて私が感じたのは、エリク・エリクソンのライフサイクル論にある成年期のことである。成年期は長い。初期成年期を合わせたら40~50年にも及ぶ。
この間は生物学的にみれば求愛をし、子育てをする時期である。その機会がこの女性には抜けていた。そう考えるとこの期間は気が遠くなるほど長い。健常者であれば子育ての代わりに仕事や趣味に没頭したりする選択肢もあるのだろうが、障害ある故かその機会も奪われていた。この視点を抜きに福祉制度を考えても、現場の職員は永遠に終わることのない話を聞く結果になるだろう。
コントによれば精神の歴史は、数学、天文学、物理学、化学、生物学と発展をし、社会学で完成するという。それぞれの学問は前の学問を乗り越えて発展する。
社会学の中でも最先端に位置するであろう福祉という学問は、果たして生物学を乗り越えることができたのだろうか?
▼新作のブラシ絵「ライオン」の製作過程(まだ未完成です)
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