組織に生きる人、組織を活かす人
フレッシュマンが緊張した面持ちで組織の一員になるのが4月。それは社会人となる証。かつて私も辞令交付式に臨み緊張した。赴任地までのバスは副園長と運転手以外は全員女性で新採用保育士10数名。最初から圧倒され不安を覚えた。それから20数年後、辞令を交付する側に立つとは思いも及ばなかった。女性ばかりの職場に複雑な思いがあったが、社会福祉とはこのような場なんだ...と思い知らされた。後輩が先に児童相談所に異動した時は自分の力の無さを運の悪さにすりかえて八つ当たりした。その時、先輩職員から「どこに居ても、どの立場でも、自分の置かれた場を理解し、自分を磨かなければ...。」と教わったが、きれいごととしか聞こえなかった。信念を持って仕事に臨み、信念を貫く強さを持たなければならないのが仕事。だが、人の話を聴く耳を持ちその声を柔軟に受け入れ、頑なにならずに見極めなければ仕事を完遂することはできない。それゆえに、様々な要素によって思考回路を変幻自在に変えられる人を育てるのは組織として重要な仕事。
 今年、(福)藤沢育成会では①ピラミッド型組織をめざす、②法人事務局を強化する、③女性登用を3本の柱とした。ピラミッド型は組織の意思決定を速やかに明確にする。法人事務局強化は法人の意図を根拠に基づき明確化し、合理的・効果的運営をする。そして、女性登用は生活全般をエリアとする福祉サービスの特性は女性のセンスが生かしやすい職場、業務内容だから。しかし、この動きは翻って考えればトップダウン強化のリスク。権力集中の危惧。能力と実力と役割や立場の違いとの整合性の課題が見え隠れ。
 "組織人"や"組織"は、判るようで判りにくい。たとえばホームヘルプなど上司の前で日々仕事をする訳ではないし、ローテーション職場や夜間の支援では、誰もいない場での業務遂行だからどこかで錯覚しやすい。転勤で施設から行政職員となった時、四六時中、所属長が自席で仕事に励んでいる場になじめず、息がつまりそうで離席のタイミングも分からず、いつも見られている感じがした。良く見えるのだから忙しさが判るだろうと思うが、次々に上司が仕事を求めてくる。急いでやるように指示する人は1人ではないから順番は自分で考える。"いつまでにやればいいでしょうか...?"の返事には2種類の答え。"急いでいるって言ってんだろう!"と腹立たしげな人と、"○○まで!"と言い置く人。自分の都合は言うが、こちらの都合を斟酌する人は少なかった。福祉現場は上司からのプレッシャーを感じにくい職場が多いようだ。しかし、次第に立場が変化すると、上司が見ているのではなく部下が見ていることに気づく。初めての課長職で上席に座った瞬間に見られている意識が芽生えた。結局、上司は部下から値踏みされていると判ると緊張感が走った。給料も同様で、昇格で給料が上がれば評価されている意識が芽生え、新たな気持ちにさせる。さらに意識させるのが"職名"で呼ぶ習慣。"園(課)長"と呼ばれる時に声をかけた部下を意識するのではなく周辺の人を意識する。つまり、家族や近隣住民から"あの人が責任者か!"と思われ、職=役割=責任を意識せざるを得なくなる。名前で呼ばれると親しみやすさはあるが、仲良しグループから脱出できにくい。仕事が終わっても"園(課)長"と呼ばれるのが嫌で勘弁してもらったことがあるが、業務中に"○○さん"と呼ぶ人はいなかった。その時、自分の出来る限りの力で職責を果たそうと感じだ。つまり職名で呼ぶことは部下が上司に対して"意識して職責を果たして下さい。"と言っていると考えた。
 "もしドラ"で話題になった組織論、マネージメント論のドラッガーは、「自らの貢献は何かと言う問いからスタートする時、人は自由となる。自由とは責任だ。」と言う。組織人としての責任とは何かを見る時、ドラッガーのオーケストラ論が面白い(『ドラッガーとオーケストラの組織論(PHP新書・山岸淳子著)』)。1人ひとりが優秀な演奏家のオーケストラの楽器は建築現場のパーツで、一つひとつ役割が異なり何一つ欠くことができない個性の集合体として演奏する。マネージメントするのは指揮者だが、指揮者を選任する時にオーケストラの個性が選ぶ。一方で、コンサートマスターは指揮者にメンバーの意思を表明して折り合いをつけるのが役割だという。指揮者が語る音楽は、社会福祉における"ミッション"。ミッションのない事業は荒波に打たれる難破船だろう。しかし、ミッションだけでは動かないのが事業。現実を動かすのはスタッフ一人ひとりの個性を活かす"モチベーション"。ドラッガーは演奏家全てが一流でかつ一つの音楽となる時に一体化するオーケストラの素晴らしさがマネージメントの極意だと語る。そして、事業遂行に必要な"マネー"が効率的・効果的に機能しなければならない。
 一方、トップダウンや権力集中、実力と役割の乖離の危惧などに応えるひとつが『組織と人間(角川oneテーマ21・佐高信×小倉寛太郎対談)』。倒産した会社を例に3点で課題を示した。①トップへの意見具申を怠った、②無気力で連帯感に乏しかった、③部下への指導力が足りなかった、である。我が身を振り返ってどうだろう...。指示に従う、従順であることだけが良い訳ではない。必要な時に必要な意見を述べることが求められている。組織の中での意見表明の正式なルートを知っているだろうか...。仲間を作れているか...。1人では出来ない仕事だからこそ仲間を求める必要がある。部下とは誰か?部下に見られている意識はあるか?部下に未来を示す力量を自らに求め続けているか...。社会福祉法人は今、社会的役割を転換する時が来ている。それはとりもなおさずそこに集う一人ひとりがそれぞれの立場、役割に等しく求められている。新年度を迎え新たな組織が動き出す時だからこそ、自分自身の役割や立場を思い返してみたいものです。(2015.4)

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