自宅ポストに「○○○の配達」とカラー刷りのチラシがあった。"レストランの味を食卓へお届け!""おウチで○○○""受付14時以降は税込¥1000円から配達します!"とあった。ファミリーレストランの宅配サービスだ。おいしそうな写真が並んだチラシは見た目もきれいで、クーポン券までついている。時間のかかる料理がある。材料をそろえなければ出来ない料理がある。煮炊きするのは当然。料理は結構手間暇がかかる。趣味で料理する人は道具をそろえ、台所を改良し、厨房自慢まで出る始末。最近、我が家で料理して食べるのは贅沢なんだと言われた。考えてみると自宅で料理すると無駄が出るし、少人数のため食材を使い切るのも難しい。作り置きすると飽きる。考えると面倒になってファミレスにでも...となる。ところが車で?徒歩で?まさか電車バスを使って?面倒になってインスタントで済ます...。だったら"おうちファミレス"しよう...らしい。
自宅前にコンビニのバイクがあった。箱型の荷物入れがあるバイクにバイト風の配達員。"コンビニも配達するの?"と声をかけたら"ハイ!結構利用していただいています。500円から配達しますから!"と元気な応え。500円って、弁当一個でしょう...と思っていたら、荷物はその弁当1個。驚きました。それで儲けがあるということですよね。最近大通りではなく自宅近くの脇道にコンビニがオープンした。車で来る人が多いと考えれば、大通りは必須要件...。あらためてご近所を眺めると、10階建て程度のマンションがあちこちにあり、後方には戸建が並んでいる。若い家族は時間が無くてコンビニで買い物はとても便利。年配者には小分けにしてあるから使い勝手がいい。
特別養護老人ホームにいた頃、配食サービスが苦戦した。担当者は単価が安い方に流れると分析していた。それも確かにあるが、選択できないメニューにも要因があるとにらんでいた。その頃からコンビニは弁当を地域特性に合わせて並べていた。学生街の弁当と住宅街の弁当はおのずと違う。それは社会福祉の言葉で言えば"ニード"。大学前のコンビニに通って気が付いた。研究所や工場の出勤時間はカロリー表示のある弁当で油物を控えていたのに、通学時間になると確実に若者用にシフトする。時間帯でニードが変わることを意識している。急に雨が降った時は、ビニール傘を店頭に並べるのは常識。寒い時にはあったかいもの、暑い時には冷たいものが売れるのも当り前。だからピンポイントの天気予報を購入するのがコンビニ商法だと聞いた。つまりそれは「顧客ニードに応える商法」で企業として当然の努力である。
社会福祉領域は、これまでのように施設入所している人だけをサービスの対象とする時代ではなくなった。施設に入所している人だけを対象として考えていた時代は"施設"と言うパッケージの中でサービス提供をしていたので"市場調査"は必要なかった。地域の"ニード"は考えてもいなかった。しかし、施設入所している人も、日中活動は別の事業所でサービスを受ける時代になった。つまり、別々のサービスを組み合わせて自分にふさわしいサービスを作ることができるようになった。パッケージの中だけを考えていた時代と違い、新しいサービスは、利用者自身が、もしくは利用者の家族、後見人などが一つひとつのサービスを組み立てて、必要に合わせたサービス体系を創るパッチワークの布地のようになった。それは事業所側から考えれば、一部のサービスをピックアップして利用されることを想定しなければいけないということ。つまり、施設内の"見える利用者"を相手にするだけでなく、地域社会の中にいる"見えない利用者"のニードに応じられる柔軟性が必要になったということ。コンビニが様々な要素を駆使して市場調査をし、顧客ニードにどれだけ応じているか考えているのと同じ。かつて社会福祉領域の大学教員が"対象者"が"利用者"となり、"ユーザー"の時代が来ると話していたが、まさに"ユーザー"の時代になったようだ。
ひるがえって我が身は、そこまで視野を広げてみることは出来ているのだろうかと思う。たとえば児童デイサービスは、何時まで行うのがニードに応えていることになるかを考えてみる。社会は男女協働の時代。保育園待機児童が減らず、延長保育が当り前になった。学童保育では時間延長が叫ばれて久しい。まだまだ解決した問題ではないが、方向性は二極化している。企業の高額なサービス提供は、親のニードに合わせて夕食だけでなく、塾への送迎、○○教室の実施などで人気を得ている。一方、従来の学童保育も健在でニードの高さを伺わせる。しかし、障害幼児に係る事業を見ると、母親の就労は社会一般と比べて極めて低い。障害児の母親は働いてはいけない訳ではない。就労環境が整っていないだけだ。それがまさしくニード。"見えない利用者"が求めているものにどのように応じるかが事業所の力量を図る時代だ。利用者のニードに応じて初めて事業として成立する。このような視点で事業を見直すと未来が見えるようだ。(2015.11)
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