昨年11月に理事長に就任してから1年がたった。あっという間の1年だったが、何ができたのだろうかと振り返る1年でもある。30年もの長きにわたって培った運営がそんなに簡単に変わるものではないと思いつつ、一つの言葉を思い起こすと安閑と出来ない気持ちに駆り立てられる。それは"人々には少しずつ進展しているように思えたとしても、障害者には痛いほど遅々として進まない..."という内容だ。障害福祉先進国の取り組みを示しながら日本の実情を説明した言葉だった。最近は利用者を"当事者"と呼び、当事者は障害者本人だけでなく、親やきょうだい、それぞれの立場で異なる考え方があると言われている。家族会のいくつかと話し合う機会を得た時、再整備の話、資金の話、親亡き後対策などを話した。家族には家族の悩み、本人には障害当事者の悩みがあると実感した。
理事長就任時、家族が培った法人であることを意識したいとあいさつした。それは、原点に立ち返りニーズをとらえ、新たなスタートをしたいという意味だった。家族会との話し合いで、家族の課題も利用者の課題もあると再認識した。違いがあることを意識しなければならないと考えた。そして、法人運営では職員の課題にも取り組まなければならないと考えている。与えられた条件の中で利用者の課題と家族の課題に取り組むためには創意工夫できる環境が必要だ。諸条件が十分でなくても出来るだけ良い方向に向かう努力が求められている。
そのために、今年度の運営にあたって3本柱の整備を提案した。施設長会議で協議した後、理事会、評議委員会でも同様の説明をして了承を得た。
① ピラミッド型の組織を作る。それはトップダウンではなくボトムアップの組織をめざすこと。
② 法人本部を強化する。それは事業運営等を見直し、時代に合った組織的、効率的運営を図ること。
③ 女性登用を図る。それは多くの人材を適材適所で活躍できるようにすることと共に、日常生活を支援する事業の中で女性の眼が生きる職場作りをめざすこと。
ご記憶だろうか?この話はどのように職員の皆さんに伝わっているかが私に伝わることが非常に少ない。反応がないと職員には伝わっていないのではないかと疑問に思い、伝わっていたとしてもどう伝わったかと思い悩む。だから、法人内で理事長メールを公開したが反応は鈍い。発言をしてはいけない職場は民主的な運営はできない。発言が少ない職場は民主的運営ができにくい。そこには発言しても...の空気と、発言させたくない...空気が充満していることが一般的に予測される。
今年のスポーツは何といってもラグビー。"ルーティン"で一躍有名になった五郎丸歩選手は日本ラグビ―代表。歴史を変えた南アフリカとの一戦。最後のトライは選手たちが自分達の考えで勝ちにこだわった結果。ヘッドコーチが4年間でめざしたのは選手の"自主性"。間違えてはいけないが、自分勝手な行動を自主性とは言わない。それは"わがまま"。自主性は選手の力量と強い意思によって成就する。"実力"という事。プロ野球でもこの"自主性"が花開いた優勝があった。残念ながら日本一にはなれなかったヤクルト。新人監督が最下位チームを引き受けて1年目で優勝したのは1975年以来2回目。それだけ難しい。真中監督は選手の自主性を見守る姿勢を貫き、選手のミーティングには通年参加しなかった。一方、世界的指揮者佐渡裕は『棒を振る人生(PHP新書)』の中で「僕の表現で言うと、指揮者は指揮をすることで、その場の"気の魂"を動かしている。究極の指揮法とは、気のコントロールだ。(P78)」と言っている。またカラヤンの言葉を引用し「指揮者にとって一番いけないのは、明確な指示を与えることだ。なぜなら、それは奏者が互いの音を聴くという大切なことをさまたげるから」とある。これらは世界的な指揮者が世界的な奏者との関係の中で培ったもの。そこには相互の実力が行き交う相乗効果がある。しかし、伝えたことを実施するのに時間がかかりすぎたり、意味のないものだったり、理解不十分なまま実行されるなど、チームワーク以前の条件が整わなければ、放任と言わざるを得ない結果をもたらす。最下位チームを優勝に導いた真中監督が行なった"自主性"は、このようなせめぎ合いの中で花開いた。"自主性"は、実力がなければ出来ない。実力がない選手に自主性を重んじると、チームとしての目標や目指す姿を見失い、好き勝手な行動になる。そこでは"自分勝手"が横行しチームとして成り立たない。それが現実。組織を作りボトムアップを図り、力を発揮できる環境を造り上げた先に見えるものが"自主性"。スタッフ一人ひとりが主体性をもって動き、チームの調和がある時、組織的な運営が結実する。1年たった今、目指す姿が少しずつ見えてきた。(2015.12)
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