『人間的(芸術新聞社、外山滋比古著)』を読んだ。冒頭に「"話せる先生"は評判がよいが、"話せる先生"はろくな教育が出来ない。話せる先生は生徒との車間距離が小さすぎる。車間距離をとらないで走るクルマは事故を起こしやすいが、近すぎる先生に教わるこどもは力を出すことが出来ない。出すとトラブルになる恐れがある。"三尺下がって師の影を踏まず"とは、こうしてみると、大した洞察である。(P8)」とあった。その通りだな...。県立大学の名誉学長阿部志郎先生は"優しさとは、「人を憂う」と書く"と話していた。子どもがしてはいけないことをすれば、止めるように諭したり、叱ったりする。だが、子どもを心配し、いずれ改めるように...と思わない人は言わない。知らない子には、しつこく注意を促さないが、我が子には必死で止めようとする。他人事とは思えないから。そこに子どもを"憂う"気持ちの違いがある。"憂う"とは"①心配、不安、②何となく心に入り込むもの悲しさ(国語辞典、小学館)"とある。気になって仕方がない様子が良く判る。優しい心は自分主体ではなく、相手の主体性が発揮できる気配りがなければならないと判る。
しかし、親子と云えども一定の年齢になれば暮し方から人生観まで微妙に異なる。それを親としていさめ、アドバイスをしようと考えても培った自らの主体性を否定されているような印象を持ってしまうために"憂い"が伝わらない。子どもが熱を出したので父親である医師が処方して薬を飲ませたが下がらない。そこで友人の医師から薬を勧めてもらうと効果が現れ始めたという話を聞いた。もちろん、それまでの経過があったからだと考えることもできる。しかし、子どもにとっては、お父さんからもらった薬とお医者さんからもらった薬では意味合いが違っていたのだろうと思わせるエピソードだ。人の気持ちは、その人との距離、関係性によってありがたみが異なると判る。知的障害児が親の言う事は聞かないのに、職員の言う事は聞くのはこの"距離"だと思う。つまり、職員は親にはなれないのである。
大学で仕事をしていた頃、学生が相談に来た。私のような年配者への相談に恋愛相談はほとんどない。多くは就職や親子関係、人生相談であるが、30代の若い先生は男性の気持ちを図りかねた相談や友だちとの関係性だったりする。そんな時は"○○先生"ではなく"大介!"や"大介さん"になっている。友達感覚なのである。友達感覚が悪いのではない。そのような関係も必要だが、不思議なことに"ありがたみ"が違う。人との距離は、時に親しみやすさを生み、時になれ合いにさせる。一方で距離がある場合は、堅苦しくなる場合もあるが、ありがたみが増すこともある。先生と学生≒生徒、先輩と後輩、上司と部下の関係は一定ではない。それが対人援助=支援だ。支援では必ず相手を"想う心≒憂い"がある。(2017.5)
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