"寿"と県中央児相の夜間指導員経験から児童福祉司になりたくて就職した初任地はひばりが丘学園。辞令交付時に判った勤務地は、希望とは全く違った。バイト先だった児相の先輩に話すと"あそこで出来ればどこでも勤まる..."。含みのある言葉の意味が判らないまま業務開始。驚きが山のようだった。"明日からちゃんとした服で来なさい!"スーツはダメ?...ちゃんとしているって何?...と戸惑った。子どもたちと一緒に動ける姿が"ちゃんとした"の意味だと判る為の時間はいらなかった。これは序の口で、てんかん発作の対応や食事介助の多様性、排泄支援の難しさ、昼間の入浴介助、1日二度の入浴介助、ドアのないトイレ等。でも一番の驚きは"鍵の束"。
鍵は日常勤務に不可欠。鍵がないとどこにも入れない生活に驚かされた時、上司から"縛られた暮らしより、鍵のかかった安全な空間を確保した暮らしが大切"と教わった。素直すぎる若者は、見学者等に同様の説明をし、理解していただいたと思っていた(何の疑問も持たなかったのは、時代なのか...恥ずかしい限り)。当時もボランティアさんが毎日のように集団で来た。直接援助よりは清掃や縫い物などが多かった。"すみません、トイレ貸して下さい"と言われ"どうぞ"と案内したが、考えてみれば介助のため扉を外したトイレを使える訳もなく後で赤面した。プライバシー保護や人権擁護の考え方が未熟だった頃の実態だ。
利用者がまだ"入所者""園生"と呼ばれた時代、入所児童以外はサービス対象と考えていなかった。それでも葬儀など急用がある時のために「緊急一時保護制度」があったが、1~2度の会議で決められなかった。"よその子"まで看る気持ちは希薄だった。葬儀は待ってくれないから結局出来ないまま終わる。ニードに応えられないジレンマを感じた...。預かれば責任が発生するから、慎重に体制を整えなければならない。どうにもならないジレンマから役割を見いだせず転職も考えた。学生時代に描いた"社会福祉"と現実がどれほど乖離していたか思い知らされたが、その後ニードを考える時、現場を大切にしなければ分からないと叩き込まれた。それでも、この仕事を続けたのは利用児童とのつながり。そこで関わった人たちは既に60近く。中にはアパート、グループホーム暮しもいるが、今も入所施設暮しが多い。理論と現実の乖離は今も狭まっていない。彼らが"普通に暮らせる時代"は到来したように見えるが、現実はまだまだ不十分。鍵が欠かせない施設もまだある。さすがにドアの無いトイレはなくなっただろうが、遅々として進まないインクルージョンにメスを入れなければならない。(2017.5-②)
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