本を読んでいると繰り返し読む人に出会う。少し前は宮本常一。日本国中を歩き続けて、昭和の景色を映し出した。"景色"とは人間模様や地域性、風土、風習、祭りなど。克明に調べ上げ、時代の景色を映し出す。「忘れられた日本人」や「塩の道」「日本残酷物語」など。ただただ、一般民衆への温かいまなざしが嬉しく、時代背景を考えながら読み漁った。膨大な著作を最後まで読み切ることなくマイブームは終焉を迎えた。
最近は、外山滋比古氏。以前から承知している名前だが、これまでマイブームとはならなかった。1923年生れ、大学の先生で英文学者、言語論者、評論家とある。前にも書いた『人間的』は初版が2012年。つまり90歳すぎの人が一冊の本を書き上げた。そのエネルギーに恐れ入った。しかも2年後『リンゴも人生もキズがあるほど甘くなる(幻冬社)』を出版。そこに"なれはおそろしい なれるとたいていのことが 気にならなくなる 悪いことになれたらおしまいである(P116)"とあった。また"何もしなければストレスはない はたらけばストレスは避けられない それをうまく処理するのが新しい知恵(P129)"ともあった。さらに"失敗ほどつらいことはないが 成功のもとだと考えて歓迎する(P40)"。これはまさに年輪が示す知恵。
文章の中に、"親はなくとも子は育つ。甘やかすだけの親ならなくてもいい"とまである。表題は"キズがあるほど甘くなる"。だから子どものうちにいろいろ失敗した方がよいともあった。何かをしてあげる風潮が強い昨今、親心として何不自由ない状態を作ってあげたいと言うが、どうも違う気がする。そうやって成長した子どもは何かが欠けた時にそれを補う工夫をしない。マニュアルを持たされ履行するよう指示されると、それ以上はしなくなる。本来、マニュアルは最低限度の仕事を示している。だからその先の高みを見ようとして欲しい。しかし、それはしてはいけないと考えている人が多い。与えられすぎた子どもは、何か一つ足りないだけで予定した料理は出来ないと考える人もいるらしい。それは"工夫"が足りないだけ。
外山先生は、現代の教育にも沢山のコメントがあるが、多くが"自ら考える力"を求めてやまない...と読める。答えを一つにすれば判りやすいが、それでは真実が見えてこない。そこが今日の日本社会の課題だと見える。日々異なる姿が現れる対人援助の仕事では自分なりの"工夫"がとても大切。そこにオリジナリティーを表現するスペースがある。そのスペースは新しい福祉サービスを生み出す"場"となる。なぜなら暮らし向きは日常の中で育まれ成長するから。
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