7月、「健康で文化的な最低限度の生活」と題したTVドラマがスタートした。憲法論議は第9条が話題になるが、これは第25条"生存権"。第1項に「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあり、そのままネーミングしたようだ。第二次世界大戦終了後、世界は国連を舞台に様々な"権利宣言""権利条約"を締約した。自由権、平等権と共に人間の普遍の権利"社会権"。それが憲法第25条。こんなお堅いフレーズを使うドラマはどんなものなのかと思い見た。
第1話は、父親から継承した会社を倒産させた男が世をはかなんで生きている時に、法テラスで借金の"過払い"が判り、払戻金が生じ生活保護から脱する話。めでたし、めでたしのドラマから始まった。第2話は、寝たきりの父、高校生の兄妹がいる母親の家族。必死で暮すが兄のアルバイトが発覚、返納金が生じた。生活保護には"補足性の原理"がある。生活保護は"世帯"が単位。この場合は4人で世帯認定。世帯の誰かが得た収入は、原則生活費とみなされる。そうしないと収入が+αになってしまう。それは働いている人より生活費が多くなる可能性があるので、世帯全員の収入を引いた金額が生活保護費とされる。収入は自己申告するのだが、申告漏れは"不正受給"とされ返さなければならない。生活保護費とは最低限度の生活保障。それは食うに困らない程度の暮らし。当然の理屈だが、兄は"貧乏人の子どもは夢見ちゃいけねぇってことかよ!"と怒りバイトで買ったエレキギターを叩き壊した。
一方、生活保護担当SWは自立支援を求められている。だから、兄の夢を否定せず、そのエネルギーを支え応援するのが仕事だ。だが、不正受給を摘発する業務もある。つまりSWは"正"と"負"を1人で任されている。これは児童相談所のSW=児童福祉司も同じ。虐待する親からの分離も、親子再統合の支援プログラムも担う。しかし、多くが公務員試験の合格者が配属されたに過ぎない素人。ドラマでも採用初日に配属先「生活課」に赴任。生活保護の根幹など知る間もなく100件近いケースを担当し、数か月後には不正受給を説明する。制度を熟知出来なければ判るはずがないが、ドラマでは判ったように振る舞い失敗して問題を複雑化させた。
役所経験が長い大学教員と話していたら、公務員の福祉職採用を非難した。何故なら専門職採用では上席者になれず責任ある対応が難しい...と。だが、不正受給と自立支援は裏腹な関係。子ども虐待の親子再統合は瞬間的な激情も視野に入れ人間性の機微が重要な要素。全くSWを知らない新人公務員が出来るのか...。しかも社会的成熟が難しい現代の若者が...。社会福祉は暮らしの支援だからドラマになる要素はふんだんにある。ドラマが「健康で文化的な最低限度の生活」をどこまで的確に捉えるか見続ける。そして、SW≒支援者≒社会福祉従事者の専門性の表し方を見ている。それが日本の社会福祉領域への理解度、認知度だから。(2018.9)
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