もう乗ることはないが長く満員電車に乗っていた。当時から愛用のアイポットが今も外出時の必需品。その頃は見ず知らずの人に囲まれる満員電車の不自然さにバリアを張るため目も閉じた。今は若者の高音で素早い会話が喧騒...、周囲の噂話に反応して心が騒ぐ...などの気分になりたくないからでもある。その頃から聞き続けているのは音楽、いや音が好き、自分の世界に浸りたい...などで、聞き続けているもののひとつが高橋真梨子。なんとなく好きなのだ。横須賀芸術劇場に出向いた時も変わらなかった。飾らず、奢らず、淡々と歌い上げる声は年と共に衰えたが、メロディーラインがくっきりして聞きやすい。
俳優は集団で表現するが、歌手は一人芝居。例えば石川さゆりは自分の世界に引き込むように歌い上げプロを感じさせる。最近は自分の内面を吐露する歌詞・曲を自作自演するがそれも一人芝居。だが、高橋真梨子は朗々と歌い上げてもこれ見よがしにならずプロを感じる。"どんな解釈で歌っていますか?"と聞かれ"解釈していない。解釈してもらうために色を付けた歌い方をしない"と。"あ~ぁ、なるほど!"と思った。歌手はメッセンジャーなんだ。作曲者の意図を聴衆に伝える。聞く人の暮らす環境で様々な解釈が出来るように歌う。それが歌手の仕事。自分の解釈を届けるのはおこがましい...。だからこの人の歌は聞きやすく飽きないのだと思った。
『対人援助の福祉エートス(ミネルヴァ書房、木原活信著)』に「歴史的に見ても、現在の観点からみてもソーシャルワーカーをその役割に着目して大別すれば、治療、媒介、代弁の三つと言える。(P95)」とある。生活支援は、社会との軋轢をどう縮減するか=その人なりの社会適応を進める。それが治療。TEACCHの"T"は"トリートメント"=治療。出来るだけ人間関係を単純化しても他者との関係で悩む=家族も含め多様な人、場所、過程、問題の整理を手伝う。それが媒介。表現が不十分で行動が不安定などから多くの課題を持たざるを得ないから代わりに表現する。それが代弁。これを読んだ時、初めて社会福祉の仕事の意味を整理できた。治療、媒介、代弁いずれもサービス提供者が主体ではない。治療は本人の主体性=治したい意思が治す力を生む。媒介は人と人の橋渡しだから、それぞれの考えが判らなければ出来ない。さらに代弁は自分を表現することではない。利用者を代弁するのだから、その人の考え方だけでなく感情や行動も代弁の要素。だから支援者自身の考え方ではない。だが、難しいのは社会的基準。社会福祉領域では、出来ること出来ないことが社会的基準で決まる。だからサービス提供者は、相手の意思を斟酌する時、社会的基準を持たなくてはならない。高橋真梨子が楽譜に忠実に歌うことと同じだろう。楽譜≒社会的基準に忠実に歌う。この歌の主体性は聞いた時からあなたのものです...と。私たちはそこまで主体性を持てる環境を利用者に提供できているか...。歌手・高橋真梨子のプロ根性を見た。(2018.11)
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