今度、ご一緒しません? その2 (路地裏はディープな味覚の世界) (よし介工芸館・梅田久仁夫)

最近、食に関する番組やイベントが各地で目白押しである。ご当地グルメとか、B-1何とかと言った類のもので、今や、美味い物探しと味自慢が現代日本の大衆娯楽と化し、町興しや復興にも一翼を担っている。そんな今時のブームに巻き込まれて路地裏から表舞台に引っ張り出された"きたな美味い店"なるものが話題になっている。きたないとは、決して非衛生的ということでなく、店の主が美味しい料理作りに専念するあまり、長い間、店の外観や内装をリニューアルすることなく、その結果、見てくれが古めかしくなってしまったという事。蔦が絡まり化け物屋敷のようなお店もあるそうだ。従って、経営者は概ね高齢者夫妻が多い。自分も学生時代から若かったころ、このような定食屋を口コミでチェックして腹を満たしていた。(豚の生姜焼き定食)

そこで、どんなお店か少しご紹介すると、例えば、店の入り口にあるショーケースの中のサンプルメニューは全て色があせ、変色してしまっているので食欲中枢を刺激しない。むしろ、見ない方がいい。だが、開店当時は主も若かっただろうし往事を偲ばせるものがある。そして、近寄りがたい外観から店内の様子を伺うことができないので、よそ者や情報不足の一見さんはのれんをくぐる事をためらう。店の広さは、今、ご想像している程度が平均的。また、店によっては、私生活と営業のエリアの区別がつかない物の配置。それと、映りの悪いテレビ、効かないエアコンはお約束。看板から、羽目板、カウンター、天井に至るまで、あちこちガムテープで応急処置が施されていても至って普通。そして、店内には長居を許さぬ錆びたパイプいすとテーブルセットが2~3組。排煙口や換気扇はベトベト油の鍾乳洞。

ざっとこんな感じのお店が多い。ところがどっこい"きたなトラン"ブランドの一品。ディズニーランドのファンタジーのように、口いっぱいに広がる美味しさは顔面崩壊するほど。そして、この珠玉の味は主のピンポイントの拘りと個性が絶妙な隠し味となっている。だから、絶品料理の味と外観のきたなさのギャップや神と凡人の落差があればあるほどマスコミからも注目される。地道にやりたくても世間が放っておかないのがグルメの世界だ。

噂になったお店がテレビなどで放映された翌日、いつものように店開きすると、店の前には「アレレッ・・!」携帯片手に野次馬交じりの長蛇の列。その日を境に毎日が行列地獄。全国から高額の航空運賃を払ってでも客が押し寄せると言う。何という世の人々の食に対する執念だろう。観光名所のあるお店は人力車が店先に・・「ここよ!ここ、ここ。きったな~い。」と、どさくさにまぎれて新しい観光スポットとなる。店主曰く「バッカじゃないの?」とは言うものの、うれしい悲鳴。だが、忙しすぎて二度と取材ロケには応じたくないという店もあるとか。そして、一番迷惑したのは地元の常連。「何で俺たち今日から並ばにゃならんの?」と日常が非日常に一変する。

厳しい時代の最中、せめて美味しいものを食べたいという庶民の願いは強い。食べて元気になりたい。そうすれば笑が戻る。これからは、見てくれや体裁、綺麗ごとは通用しない。今日も路地裏で愛情いっぱいの勝負飯を振る舞う大将に☆☆☆!がんばろう日本。来年はきっといい年だ。

 

▼写真:庶民を誘う赤いちょうちん (映像は本文の内容とは無関係です。)

赤ちょうちん.jpg
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