Aさんカレンダーの知的独自論理学(湘南あおぞら・小林 博)

 

iruka.JPG11月の中旬に房総方面へ一泊旅行に行ってきた。利用者にとっては、年に一度のいちばん楽しみな行事である。利用者5人、職員4人のグループだったが、私は男性利用者Aさんと、いわゆるマンツーマンの組み合わせで、一泊二日をずっと2人で過ごした。
 
鴨川シーワールドでイルカショーを一緒に見た。ドラマ仕立てのイルカショーだった。男女ひとりずつのナレーターがイルカの動きに合わせて、台詞をつけて話を展開する。イルカ一家はお父さん、お母さん、娘、息子の4人家族。ある朝、茶の間での一家の会話という設定である。
 
「今日は日曜日、イルカの一家が仲良く朝食を食べています。」
女子ナレーターが最初にストーリーの状況説明をした。その一言に、Aさんが引っかかった。
 
「あれー、違うよ。今日は木曜日だよ、日曜日じゃない、おかしいよ。」
 
隣にいる私は答えに窮した。
「あのー、ドラマなんで一応今日は日曜日ということにして、見てもらうと・・・ほらほら楽しいね、あのイルカ、かわいい!」
 
「何言ってんの、日曜日なんて、間違えないでよ。今日は木曜日!」
 
Aさんカレンダーに完全敗北。賢しらな説得や説明はやめにした。
 
そう言えば、誰にも譲れないAさんカレンダーがもう一つあった。Aさんには、3歳年下の妹さんがいる。Aさんは12月生まれなのだが、妹さんは6月生まれである。
 
「妹はぼくより、後に生まれているからぼくの妹だ。でも、誕生日はぼくが12月で、妹が6月だ。これじゃ妹の方が先じゃないか。それでなんで妹なんだ。妹の方が後じゃなけば変じゃないか。おかしいよ。おかしい。」
 
このAさんカレンダーの強固な論理には、誰も反論できない。妹さんの誕生日の6月ころになると、このことが毎年Aさんとお母さんや職員との間で、話題になる。これに対しても、Aさんを納得させる論理がなく、いつもAさんが勝つ。Aさんは、論戦には勝つが、妹さんがお姉さんになることは決してない。このことは、Aさんにとって、世の不条理の最たるものの一つだろうと思う。
 
私たちの常識を一般論理学と呼ぶなら、Aさんは、自分のカレンダーを支える強固な、いわば知的独自論理学を持っている。
 
一般論理学は、ずっと、おそらく有史以来ずっと、知的独自論理学の存在を認めず、Aさんのようなユニークな認知を、誤謬論理として排斥してきた。誤謬論理をなんとか、理知理性の力で説き伏せ、一般論理学に宗旨替えさせようと努力してきた。
 
しかし、知的独自論理学は、この世の正統な論理学のひとつとして、迎えられるべきではないのか。世界と人間の多様性を語るのなら、一般論理学の言葉と同等の権利をもって、この世に知的独自論理学の言葉があってよいはずである。

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