Macin亭日乗・其の三(湘南セシリア副施設長・小林博)

前回は、いささかおふざけが過ぎた観もあるので、今回は普通の文章でいきます。

10月3日~5日と熊本で全国知的障害者施設職員研修大会があり、参加してきた。全国知的障害者福祉協会の主催の研修会だが、永年勤続者の表彰があり、ありがたく20年の表彰状と記念品をいただいた。本番の研修では、川島志保弁護士の『障害者虐待防止法』についての講義や、『がんばらい』で有名な医師の鎌田實さんの講演があった。ここは研修報告の場ではないので、報告は別の機会に譲りたい。

研修後、連休ということもあり、熊本・福岡方面を一人旅して回った。その一日を福岡県大野城市に住む、K君に案内してもらった。K君は高校の同級生で、ブラスバンド部の仲間でもあった。長い付き合いなので、私の趣味嗜好や経歴は知り抜いている。
「小林好みのコースを用意しといたよ」と私が興味関心のありそうな場所をセレクトして、車で懇切丁寧なガイドも付けて案内してくれた。そのコースは、

その1、水木城跡
その2、太宰府天満宮
その3、八木山峠
その4、柳川市石炭・歴史博物館
その5、伊藤伝右衞門旧邸
その6、嘉穂劇場
その7,武田たばこ店

というものだった。ここは報告の場ではないので、詳しい旅の報告は別の機会に譲りたい。一つだけ、武田たばこ店は、武田鉄也の『母に捧げるバラード』で有名な武田たばこ店である。

K君の自宅に泊めてもらい、翌日このコースを回ったのだが、その止宿の晩、K君は、待ってましたとばかり、趣味で集めた自分のコレクションを見せてくれた。骨董の焼き物、木工品、中古カメラ、稀覯本などなど、うれしそうに薀蓄を傾けながら披露してくれた。その話も実に面白かったのだが、長くなるので別の機会に譲りたい。

今日の本題は、写真家・井上孝治のことである。K君に教えられて、初めてその名を知ったが、井上孝治は、聾唖のアマチュア写真家である。K君の家のすぐ近くに住んでいたという。大野城の地元で写真館を営んでいたが、店のやりくりは奥さんに任せきりで、自分は一年中写真を撮り歩いていたらしい。晩年になって写真界でも注目されるようになり、三冊の写真集を世に残した。K君は地元のよしみということもあり、古本屋を回って『こどものいた街』『思い出の街』の二冊を集めていた。その写真集を見せてもらった。素晴らしい。特に、子どもたちの表情が、本当に素晴らしい。ファインダー越しに子どもたちと井上孝治が細やかに交感している様子が、どの写真からもじかに伝わってくる。井上孝治の名を教えてくれたK君に、持つべきものは旧友だの思いを強くした。

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