「追悼:今道友信氏」 (湘南あおぞら・倉重 達也)

 昨年の秋に日本の哲学会、美学会の泰斗であった今道友信氏が亡くなられた。享年89歳。今道氏の名前を知ったのは私が福祉の道に入るきっかけとなった、社会福祉法人真生会理事長故宮崎晋先生から伺ったのが最初なので、かれこれ30数年前のことになる。宮崎先生がその若き友人でありながら当時既に世界的な学者であった今道氏のことを、尊敬の念を持って話しておられた姿が今でも懐かしく思い出される。

 その後23回講演会やカルチャーセンターでお話を伺ったことがあるが、その時の上品で優しい話しぶりの中にも確固たる信念を感じさせる暖かい声がまだ耳元に鮮やかに残っている。正に「照応」ということを大事にされた氏のお姿そのものであった。

 著書も多数でその論ずるところは古今東西に渡り、その該博な知識と縦横無尽に論ずる話しぶりは、近年あまり聞かれなくなった碩学と呼ぶに相応しい方であった。

 高度経済成長期の1970年代から生圏倫理学(エコ・エチィカ)を提唱し、技術連関が環境となった現代においてあらたな倫理が必要なことを熱心に説いておられた。神話の中のものでしかなかった魔法の絨毯や隠れ蓑が、飛行機や携帯電話などで現実のものになったことにより、古い個人の倫理が通じなくなってきた危惧と将来を憂える気持ちは大きなものであった。その萌芽は、恐らく氏が若き日にアリストテレスの行為の三段論法が、技術連関が発達した現代において変容してしまったことを論破した時から一貫して問い続けてきたものである。

 学問的なことはこれ以上の理解が及ばないが、学際的な研究を超えて美と芸術、そして人間として本当に「美しい心」とは何かを、折に触れ、また自己の体験を通して平易に説いておられた。

 残念ながら日本という枠をはるかに超えて活躍されていた方なのでその訃報の記事も日本ではそれほど大きく取り上げられなかった。

 「権威」と「人格」という少し古くなった言葉を久々に思い出した。

 

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余談ながら、前回取り上げた彫刻家高田博厚も今道友信氏の著作で知った。もう一つの彫刻は駅北口から市役所新館に向かう途中の某不動産屋さんの入り口のところにあります。かなり目立つのでご存知の方が多かったと思います。(写真)

第13回 写真.jpg

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