空を眺めて (みらい社・植村  裕)

8月に東京に住む高校時代の友人から連絡があり、伊豆に別荘を購入したので一緒に行かないかとの誘いがあった。早速一泊での日程を決め、思わぬ再会を指折り楽しみに待っていた。

当日、彼と茅ヶ崎駅で落ち合い、食糧を調達し、彼の別荘のある函南に私の車で向かった。あいにく小雨が降っていたが、今回の旅行は「何もしないでのんびりする」をテーマにしていたので、さして気にならなかった。土曜日であったが道路はあまり混まず、順調に現地に着くことができた。別荘は「昭和のかほりを残す」デザインで、間取りもゆったり取ってあり、居心地のよい造りである。何よりうれしいのは温泉が引かれていることだ。

お茶を飲んで一息つくと彼は「夕食の支度をするから温泉にゆっくり入って。」と言う。友人は料理を作るのが得意で、人をもてなすのが好きなのである。すっかり甘えて、温泉に入ることにした。ぬるめのお湯につかり、のんびりと彼との関係など取り留めもなく思いだしていた。高校のときクラスは違ったが、何故か馬が合い、一緒に遊んだり、泊まることも多かった。しかし、卒業してからはすっかり疎遠になってしまい、再びこうして一緒に泊まるのも40年ぶりだろうか。その頃、彼とよく話をしていた夢は、私たちが歳を取ったとき、静かな田舎の家でお互い夫婦で囲炉裏を囲み、世の更けるまで話をすることだった。今日はお互いのつれあいは不在であるが、長い年月を経て初老と呼ばれる歳になり、その夢がかない始めたのかもしれない。長いこと心にしまい込んでいたものだ。彼はこのことを覚えているだろうか。今度、夫婦がそろって会い、夢が実現したら話そうと思う。楽しみである。

 

 風呂から上がると、食事の支度ができていた。きのこのたくさん入った炊き込みご飯、具だくさんの豚汁、刺身、サラダ、デザートのブドウと、ごちそうだった。どれも友人の気持ちがこもり、とてもおいしかった。「これなら旅館ができるね。」と言うと、彼はにっこり笑った。食後は私が食器を洗いお茶を彼が入れてくれた。そう残念なことに?私たちは二人とも下戸なのだ。高校時代よく聞いたビートルズ、ニール・ヤング、高田渡などをBGMにお茶やコーヒーを飲みながら、近況や昔のことを夜更けまで語り合った。

 

目が覚めると雨はあがり雲は多いが晴れ間も見えていた。ふもとにおいしいパン屋があるというので、朝食のため二人で30分程かけて歩いて買いに行った。行きは下りでよいいが、帰りの上りは結構きつく息を切らせ汗をかいた。朝食を済ませ食後のコーヒーを飲んでいると「汗をかいたから一風呂あびてきたら。」と友人が声をかけてくれた。朝から温泉なんて贅沢だなぁ、と言いながらのんびり入らせてもらった。風呂から上がると彼はテラスで外の景色を眺めていた。まだ雲に隠れている部分もあるが富士山が見えていた。彼のご自慢の景色なので、私もうれしかった。そして、いつのまにか用意してくれたハンモックを指して「ゆっくりしてなよ。」と言ってくれた。私はハンモックに横たわり空を眺めた。視界は空だけだ。雲の動きは早く形を様々に変えていく。しばらく見ていると、空の色も光の加減で、淡い青から鮮やかな青に変わっていくのが分かる。小さい頃、よく野原に寝転んで、こんなふうに空を眺めていたことを思い出した。そして、ゆっくり流れる時間を味わい、さまざまな思いを一つずつ噛みしめてみた。                                 

 最後に私を誘ってくれた友人の暖かい心づかいとやさしさに心から感謝いたしたい。

 

2013 10 29施設長日記1.jpg

2013 10 29施設日記2.jpg

2013 10 29施設日記3.jpg

 

 

 

ページトップへ

過去のお知らせ

2013年10月
1 2 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31