東京丸の内に本社を構える、東京海上日動本館一階お客様スクエア入口に三点の水彩画が展示されている。かつてよし介工芸館利用者のMさんの作品だ。Mさんは知的障がいがあったため、中学を卒業後、地域作業所のころのよし介工芸館に来られて二十数年間、はた織りや木版画などの創作活動をされていた方だ。そして、数年前、ご家族の縁があって晴れて同社の特例子会社、"東京海上ビジネスサポート"の社員となり、現在では毎日、電車に乗って東京駅まで通っている。3.11の時は、帰宅難民となって丸の内に一泊したと話されていた。
今年の7月にMさんのお母様に案内されて彼の職場を訪ねて行ったが、Mさんは会社の重要書類や機密情報などを処理する物流部という部署に配属されていた。各所から出てくる廃棄書類を回収、仕訳してリサイクル処分する仕事だ。その日もMさんはお仲間の方たちと黙々と仕事をこなされていたが、自分と母親二人の突然の訪問にMさんの眼が一瞬点になった。手を振って挨拶しても「!?」と言った表情でしばらくこちらを見ていたが、ようやく、恥ずかしそうに少しだけ笑顔を見せただけで、すぐに我に返って仕事に専念し出した。もともと几帳面で集中力のあった方だったので、ここでも丁寧で正確な仕事をしていますと担当の方が仰っていた。
そんな折、Mさんの絵が社内で評判になり、その絵を会社の卓上カレンダーに、という企画が持ち上がった。やがて、会社からよし介工芸館に連絡があり、数日後に担当の方がやって来られた。そして、過去何年間かに渡って描きためておいた作品の数点が使われる事になった。その後も会社の社長さんまでわざわざ来られ、原画を数点会社に展示したいのでしばらく借用させてはもらえないかとのお申し出があり、本社に常設展示される事となった。今年の秋には、名古屋の東京海上日動ビルでもオフィスと地域をつなぐ地域貢献エリアなる場所のギャラリーに展示し、市民の方たちにお見せしたいというお話があったので、ご家族もご本人も二つ返事で快諾され、再び作品がよし介工芸館から羽ばたいて行った。
Mさんは、今でも仕事がお休みの土曜日になるとエクルに来て絵を描いている。自宅では小さな東京駅の写真を納得いくまで虫眼鏡で観察して、少しずつゆっくり正確に描いているというが、東京駅は横長なので大作になりそうだ。"キットパスエクル"のパッケージの絵も彼の絵。水彩、色鉛筆と画材が異なると作風が全く異なるのがMさんの絵の特徴。だから作品の出来上がりがいつも楽しみだ。
仕事、そして、才能が開花できるよう後押ししてくれる環境にいるMさんはホントに幸せな方だと思うが、もっともっと"豊かな生活"を送れるような方が増えてくる事を願いたい。
▼イタリア バチカン(水彩)
▼南国の鳥(キットパス)
▼Mさんの会社の社長さんらがやって来て・・・。
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