前回の続きを書きたい。続きを書きたいと思ったのは、吉川幸次郎について書き足りないことがあり、燃えカスが残ったからである。
吉川幸次郎は1904年生まれ、1980年没。杜甫詩註その他で知られる中国文学の碩学だが、その碩学をもってしても女子学生に教えられることがあったということを、「驚愕」という題へのこじつけで前回は書いた。
さて、続きと言うのは、「日本は永遠の言葉となりうるような古典と言うものをもっていないのではないか、道理はみな、外からの輸入物ではないか」という吉川の指摘についてである。
吉川幸次郎は「古典と現代」(昭和35年1月1日 読売新聞掲載「他山石語」所収)という文章の中で次のようなことを言っている。
現代の日本では、古典という言葉が、無造作かつお手軽に使われていて、江戸時代以前の文学なら、何でも古典文学と呼んでいるのではないか。源氏物語でさえも、数人の女性を同時に愛することを義務としているように見える主人公の生活は、現在のわれわれにとって、理解しやすいものではないから、古典(永遠の言葉)と呼ぶには条件の置き換えが必要となる。
そして、日本に古典がない理由として、インドや中国の文明は、その文明の及ぶ地域が、すなわち全人類の地域であると考えつつ発生したのに対し、日本はそうでなく、はじめから、みずからの文明を地域的なものと自覚していた。したがって全人類のためにという言葉は、生まれにくく、その結果、道理の源泉が、早くから外国にゆだねられ、明治以前は中国あるいはインドに、明治以降はより多く西洋にゆだねられた。それがみずからの中に古典を作ることを、いっそう無精にした。
障害者差別解消法にしても、女性の登用という安倍総理の掛け声にしても、その論調は他の先進国は批准している、西洋と比較して女性の重要ポストに占めるパーセントが低い、だから、追いつけ追い越せ式のものが多い気がする。これらも道理の輸入なのだろう。
道理としては通っているのだから、それを実現することに努力することは大切であろうが、それと同時に、この永年の無精をきめこんできたと言う事実を真摯に見つめ、そこから脱出することを本気に取り組んでいかなくては真の国際人すなわち永遠の言葉をもった国民とならないのではないだろうか。
以上
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