燃えカスの二つ目。
西洋の詩はメタファーを重視し、東洋の詩は必ずしもそれを重視しない。その西方の例としてボードレールを吉川はあげる。「女性は、バラ色の秋の空に、また、風をはらんだ帆船に、黒髪はうなばらに、月はあたらしいメダルに、憂鬱にたれさがる空は、密閉したうつわのふたに、それぞれなぞらえられている。」(「東方の詩のために」昭和40年1月4日 毎日新聞夕刊 「他山石語」所収)
これに対し、東洋の詩はそうでないことを説くが、吉川の筆の運びは慎重である。「ところで日本の詩は比喩の使用に熱心でないことに、私は近ごろ気づいた」と、こんな調子である。ところが、それもすんなりと進まずに「ただし、例外は、恋の歌である。」と紆余し、壬生忠岑の「須磨のあまの塩やくけぶり風をいたみ思はぬ方にたなびきにけり」と先にメタフォーの例が日本の伝統の和歌にもあることを挙げる。
「しかし恋の歌とても、比喩の助けを借りない歌に、かえって絶唱があるのを感ずる。」と曲折し、「うたたねに恋しき人を見てしより夢てふものは頼めそめてき」と小町の歌を例に挙げている。
さらにその比喩の使用に熱心でない例を続けて、芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」「菊の香や奈良には古き仏達」「くたびれて宿借るころや藤の花」を挙げて、芭蕉の全集840句から比喩の句、20句内外を拾うにも相当苦労をすると述べている。
芭蕉の方法は「なまくらな心ならば、何の血縁もない」として見過ごす傾向にある二つのものを提出し、それらをむすび合わせる。それら二者は、同じ平面に並列しつつ、むすびあい、深めあう。西洋の詩の比喩はそれを別の平面にむすびつける。女性をバラ色の秋の空に、また、風をはらんだ帆船にむすびつけるように。
これらの違いは何を意味するのだろうか。
一神教と汎神論の違いなど様々な解釈が可能なのだろうが、吉川自身は、これについては、「東西の違いは相補うものであり、われわれの立場としては東方の詩の美学を西方に向かって説明する立場にある」と結んでいるだけでその理由については言及してない。
以 上
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