驚きの西洋宗教音楽史〜私のお正月(サービスセンターぱる・小林博)
お正月は優雅に海外でバカンス。などと報告したいところだが、そんな贅沢とはほど遠く、のんびり、ゆっくり、ひたすら自宅で過ごした。それでもせっかくの長期休暇だ。せわしない日常となるべく遠く離れたことをしてみたい。タイムマシンに乗った気分になって、西洋宗教音楽史の旅に出ることにした。
年末にネットの広告で見つけて、『西洋宗教音楽の歴史』というCDボックスを購入した。CD29枚組という膨大なものだが、それがたったの8500円で売っていたのである。一昔前なら10万円近い大枚をはたかなければ買えなかったようなCDボックスである。最近、特に海外原盤ものは、信じられないくらいの値段で売っていることがある。CDも安くなったものだと嬉しい反面、これで音楽業界は成り立っていくのだろうかと余計な心配もしながら、それでも即決でポチッたのであった。
年末にネットの広告で見つけて、『西洋宗教音楽の歴史』というCDボックスを購入した。CD29枚組という膨大なものだが、それがたったの8500円で売っていたのである。一昔前なら10万円近い大枚をはたかなければ買えなかったようなCDボックスである。最近、特に海外原盤ものは、信じられないくらいの値段で売っていることがある。CDも安くなったものだと嬉しい反面、これで音楽業界は成り立っていくのだろうかと余計な心配もしながら、それでも即決でポチッたのであった。
CD29枚組を全部愛用のMacBook Airに取り込んで、これも愛用のBoseのBluetooth接続スピーカーで、正月休みの間、心置きなく聴きこんだ。紀元前後から20世紀まで、2000年に及ぶ西洋宗教音楽の歴史を自宅で居ながらにして体験することができた。
CDの音楽データをそのままupすることはできないので、YouTubeで探してみた。YouTubeも大したものだ。一般的にはかなりマイナーな音楽だと思うのだが、作曲家の検索をかければ、CDボックスのものとほぼ同じ音源を見つけることができた。それをご紹介しながら、西洋宗教音楽史の旅を皆様にも追体験してもらうことにしよう。
ヨーロッパの宗教音楽は、グレゴリオ聖歌に始まる。初期のキリスト教徒たちが、祈りとともに歌っていたものだ。ラテン語の祈祷文を単旋律で朗唱するのだが、不思議な呪文のような響きを持っている。この時代には、まだ歌という概念はなくて、祈りと声と言葉は一体になっており、グレゴリオ聖歌は修道院の中で「神の世界で鳴り響く音楽」(岡田暁生)として聞かれていたのであろう。
恐らく初めは一人で朗唱していたものが、複数の修道士が一緒に歌うようになる。それでも単旋律であることに変わりはなく、斉唱でまったく同じ旋律を複数の人が合わせて歌う形になる。
斉唱の形はどんどん洗練されていき、このように静謐で美しい響きがずっと教会や修道院に流れていた。
この頃までのグレゴリオ聖歌は、すべて口承音楽である。楽譜というものが存在しないから、聖歌はすべて人から人へ対面で伝えられ、それが延々と受け継がれていった。紀元800年ころになって、初めてネウマと呼ばれる記譜法が現れ、音を書き表して伝達できるようになる。そして、その頃、グレゴリオ聖歌は単旋律の世界から飛び立って、対旋律を獲得する。実に800年もの間、ヨーロッパの音楽は単旋律の歌しか持っていなかったのである。これは驚くべきことだ。
単旋律に別の声部を加え、重ねて歌う形式をオルガヌムと呼ぶ。オルガヌムの時代になって、いわゆる作曲家も歴史に特定されるようになり、現代に通じる「音楽」に近い響きが生まれてくる。その初期作曲家の一人がレオティヌスである。二つの旋律が同時に進行する二声のポリフォニー(対位法)がはっきり聞き取れる。
同じくオルガヌムの作曲家として後世に名を残すのがペロティヌスである。ポリフォニーは四声となり、より入り組んでくる。音程も複雑になり、朗唱からメロディが生まれつつあるのが分かる。音の長さも長短がはっきりしてきて、リズムへの志向が明らかに読み取れる。メロディとリズムが産声を上げる歴史的な瞬間に立ち会っているような気がしてくる。
14世紀に『アルス・ノヴァ』という音楽理論書が著わされた。これによって記譜法も現代の音符に近いものになり、四分の二拍子、八分の六拍子などのリズムの概念が明確になってくる。この『アルス・ノヴァ』の時代を代表するのが、フランスのマショーである。パリのノートルダム大聖堂を拠点に活躍したので、ノートルダム楽派と言われる。複雑なリズムが縦横に踊る生き生きとした感じが心地よい。
15世紀には、フランドル楽派が活躍した。フランドル地方(現在の北フランスから南ベルギーに当たる)を中心に活動したのでこの名がある。その代表的な作曲家がデュファイである。それまでの音楽を集大成した大作曲家として、後世のモンテヴェルディやバッハと比肩される。自在なメロディが展開され、三度や六度のハーモニーがしっかりと構成されている。
フランドル楽派の一人のデプレ。この『アヴェ・マリア』は清らかであまりに美しい。
フランドル楽派の一人だが、イタリアやドイツにも渡り、広く活躍したのが、ラッススである。イタリア読みではラッソと呼ばれる。世俗歌曲の要素も多く取り入れているので、劇的な表現力が特徴的である。
16世紀の宗教改革の時代、イギリスにバードが現れる。イギリス国教会の成立とともにその教会音楽を支えた巨匠である。荘厳な響きに圧倒される思いがする。
パレストリーナはルネサンス期の代表的な作曲家である。ポリフォニーの形式をとっているが、美しいメロディが和声(ハーモニー)によって支えられ、現代人の耳に馴染んだ「クラシック音楽」の風合いが明瞭に感じられる。
ルネサンスからバロックへの移行期に位置する作曲家モンテヴェルディ。宗教音楽からオペラが生まれてくる。ここでもその産声が聞こえてくるようだ。
ヨーロッパの宗教音楽は、バッハによって一つの集大成を遂げた。その金字塔と言える『ミサ曲ロ短調』。
最後にモーツァルトの『アヴェ・ヴェルム・コルプス』をお届けする。
多くの人が「世界で最も美しい音楽」と讃える名曲である。
多くの人が「世界で最も美しい音楽」と讃える名曲である。
<参考文献>
岡田暁生 『西洋音楽史』
皆川達夫 『中世・ルネサンスの音楽』
皆川達夫 『バロック音楽』
柴田南雄 『西洋音楽の歴史』
ハワード・グッドール 『音楽の進化史』
岡田暁生 『西洋音楽史』
皆川達夫 『中世・ルネサンスの音楽』
皆川達夫 『バロック音楽』
柴田南雄 『西洋音楽の歴史』
ハワード・グッドール 『音楽の進化史』
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