それは梅雨の晴れ間の7月14日の暑い午後のことであった。エレベーターで18階まで上がり、無機質な白い壁沿いに歩いて指定された部屋のドアを叩く。「こちらでお待ちください」と言う若い女性の声に促されて、入口の右側に位置する殺風景な部屋に通された。楕円形のテーブルに椅子が7~8脚、乱雑に並んでいる。先約が一人、年配の男性が座っていた。
ここは、厚生労働省が入る中央合同庁舎の一室。待っている間に読んでおいてくださいと「保険者意見」と書いた1枚の紙を手渡される。「診断書の内容を総合的に判断すると国民年金法施行令別表に定める2級の障害の程度には該当しません」と書いてある。
事の発端は、当法人の利用者の年金が支給停止になったことにある。20歳になって障害基礎年金の受給を開始したが、5年経って医師の診断書の提出を求められ、提出したところ「支給事由が消滅した」と年金支給停止の通知を受け取る。厚生労働大臣名だった。
当初、お母さんはその通知をみて年金の受給は諦めたようだ。その後お母さんから相談を受けて、審査請求の手続きを取ることになり、一審の審査請求が棄却されたため、二審に当たる社会保険審査会に再審査請求し、今回の審理の場に臨んだというのが経緯である。この間、約1年。
待つこと15分。「どうぞ」と審理室に通される。
中に入ると、ロの字型に机が並べてあり、右奥の1列に審査員が3名。請求人の代理人である私が審査員列と直角の左側の列に座り、保険者がその向かいに4人ほど、そして審査員の向かいには参与と紹介された人が5人ほど着席していた。壁際には事務局として7~8人。
先ずは審査委員長から「暑いですからどうぞ上着を脱いでください。私たちもそうしていますから」と雰囲気を和らげるように穏やかな声をかけられた。それから簡単な説明と列席者の確認があり審理に入る。審査員から幾つか質問があり、最後に、陳述の機会を与えられた。
あらかじめ用意してきた陳述を読み上げる。一つは、支給停止から1年が経った後に障害給付の額改定請求をおこない、再度年金を受給できることになったという事実。二つ目は、年金の判定と同時期に障害支援区分の認定を受け、年金は軽くなったという判断が出て支給停止になり、一方支援区分は重くなるという(それも同一医師の診断)矛盾があったと主張した再審査請求の趣旨に関連して、今回のような矛盾が生じたのは知的障害者に対する法律上の定義がなく、そのため個々の法令においてその目的に応じた別々な判断基準に従っているためであること。具体的には、手帳をもらうための判定、事業所を利用するための障害支援区分、そして年金を受け取るための判定とそれぞれの基準があり、そのため当事者及びその家族は大変混乱していることを述べ、それぞれに整合性をとるなど根本的な解決をしていただきたい旨を申し上げた。
そんな審理の場から1週間経った7月20日付の神奈川新聞朝刊に「障害年金 判定不服3倍増 14年度支給厳格化が背景か」という見出しの記事が社会面に出ていた。一審で申し立てが認められた割合は2000年度以降7~13%で推移していたが、2014年度は6%と最低だった由。最後に「判定が厳しくなっているのではないか」との指摘があると記事は結んでいる。
審理の結果は概ね3か月後に出るとのことである。
以上
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